Dairy_igarashi(2025/02/11)

駅前のベンチで

今日はちょっと無理をしすぎたかもしれない。

昼から業者との商談が立て続けに入っていて、
帰り道、駅に着いたあたりでふっと視界が揺れて、そのまましゃがみ込んでしまった。

周りの音がぼやけて、しばらく動けなかった。
こういうとき、自分は年を取ったのだと思い知らされる。

頭の上から「大丈夫ですか?」と声をかけられた。
見上げると、うちのスタッフだった。篠塚さんだ。

一瞬、気づくのに時間がかかった。
私服だったし、彼女の声を真正面から聞いたことがあまりなかったから。

たしか、面接のときに“千早駅が最寄りなんです”と話していた気がする。
本当に、偶然なのだろう。

近くのベンチまで連れて行ってくれて、
自動販売機で買った水を差し出してくれた。

少しだけ話もした。

いつもこの千早バスターミナル前広場で路上ライブをしているらしい。
オリジナル曲の反応があまりよくないので、最近はカバーの方が多くなった――と、
彼女は少し申し訳なさそうに笑った。

「……ってすみません、こんな愚痴みたいな話、聞きたくないですよね」と言ったあと、
なんとなく目をそらした気がする。

「そんなことないよ」
とっさにそう返していた。

「いつか、オリジナル曲を聴きに行くね。」

……それだけのやりとりだったのに、
今日は妙に、それがずっと残ってる。

優しい子だ。
ありがたかった。

(23/40)