Diary_igarashi(2025/05/16)
夜空に咲く花
彼女が言っていた。
毎年、必ず家族で花火を見に行くのが恒例なんです、と。
その話を聞いたのは、たしか面接のときだったか。
感謝祭期間中で少しスタッフに無理をさせることになったが、
私も休暇をとり黒船祭海上花火大会へ向かった。
彼女の話していた、“家族水入らず”の大切な時間を、壊すつもりはない。
私は少しだけ離れた場所から、彼女と同じ空を見上げていた。
大輪の花が、夜空に音を立てて咲いていく。
色とりどりの光が、彼女の頬を照らしていた。
真正面から見える距離ではなかったけれど、
それでも私は、心のつながりをはっきりと感じた。
彼女の目にも、私の目にも、同じ美しい花が咲いていた。
言葉は交わさなくても、手を伸ばさなくても、
私たちは、確かに愛し合っている。
花火が終わったあとだった。
帰り道の人波のなかで、彼女と家族の声が聞こえてきた。
「唯、もう戻ってきなさい」
「音楽で成功するのは一握りでしょう…」
「そろそろ現実を見なさい。夢を追うのはもう終わりにしなさい」
彼女は小さく「わかってる」と言いながら、
声が震えていた。
言い返すこともなく、うつむいたままだった。
彼女の声は、天使の声だ。あれを、あきらめさせるなんて許せない。
彼女の夢を――
彼女と私を引き裂こうとしている。
……だとしたら、これは試練だ。
あの神話の二人も、たくさんの試練を乗り越えて、真実の愛を手に入れた。
私たちも、同じだ。
任せてほしい。
安心してね、唯さん。